いつも当教室の指導にご理解とご協力をいただき、ありがとうございます。 本日は、ご家庭での「宿題の取り組み方」について、とても大切なお願いがあります。
熱心な保護者の方ほど、ご自宅でお子様の宿題を見てあげたり、間違えたところを一緒に直してあげたりと、手厚くサポートしてくださっているかと思います。お子様を思うそのお気持ちは本当にありがたいのですが、実は学習指導の観点からすると、宿題をご家庭で教えたり、添削したりするのはお控えいただきたいのです。
「どうして?」と思われるかもしれません。ここで、とあるAちゃんのエピソードをご紹介します。
宿題、「教えて」あげていませんか
Aちゃんは教室で苦戦した問題でも、宿題はほぼ満点。いつも教室で学習した内容をそのまま宿題にしていますので、こちらとしても「しっかり理解してくれたんだな」と安心していました。ところが、ある日宿題のやり忘れが数問あり、教室でやってもらうと、なぜか手が止まる。首をかしげながら「わかりません」と持ってくる。こちらの方が戸惑いました。
理由はすぐにわかりました。お母さまが毎晩、隣について宿題を見てくださっていたのです。もちろん悪気は全くありません。むしろとても熱心で、教育熱心なご家庭でした。ただ、Aちゃんがつまずくたびに「ここはね、こうやるのよ」とヒント(という名の誘導)を出し、間違えれば「ちがうよ、こうでしょう」と正解を教えてあげていました。
その結果、宿題のノートには「正しい答え」だけが並び、Aちゃん自身がどこでつまずいたのか、何がわからなかったのかという最も大事な情報が、跡形もなく消えてしまっていたのです。さらに、少しでも難しい問題にぶつかると、自分で考えようとせずに「先生、これどうやるの?」と、すぐに答えや解き方を求めてしまう癖がついていたのです。
なぜ「教えないでほしい」のか
保護者の方が宿題を見てくださること自体は、とてもありがたいことです。ただ、そこで「教える」「直す」というところまで踏み込んでしまうと、思わぬ副作用が出てきます。
まず、子どもは「わからなければ親に聞けばいい」と学習してしまいます。自分の頭で粘り強く考える前に、すぐ隣にいる大人に頼る癖がついてしまうのです。
次に、間違いそのものを避けるようになります。直しをするのが面倒だから、あるいは親が横で残念そうな顔をするのが嫌だから、間違えること自体を恐れるようになる。しかし本来、間違いは学習の入り口であって、避けるべきものではありません。
そして、これが一番の問題かもしれませんが、大人が教える内容はどうしても「解き方」に偏りがちです。「この形が出てきたらこの公式」というような、いわば「テクニック」です。もちろん専門的に指導方法を学んだ我々プロであれば話は別ですが、多くの場合、大人は自分が理解している最短ルートを教えてしまいます。子どもがなぜそうなるのかという「考え方」を自分の力で組み立てる経験が、そこで奪われてしまうのです。
また、「その解き方が学年相当であるか」「学校で学ぶ考え方に沿っているか」という重要なポイントも忘れがちです。時刻と時間のちがいもまだおぼつかない小2生に「時刻同士の筆算」を説明したり、「どれが”もとになる量”なのか」がわからない小5生に「比で解けばいい」と教えてみたり(比は小6単元です)。
結果として起きるのが、まさにAちゃんのような現象です。宿題では満点なのに、ひとりでは解けない。これは、子ども自身の力ではなく、隣についていた大人の理解度を測っていたことになります。そしてこちらとしては、その子が本当はどこでつまずいているのかが見えなくなり、次の指導を組み立てることが難しくなってしまいます。
お願いしたいのは「教える」ことではなく「見守る」こと
とはいえ、まだまだ小学生。宿題への関わりを完全にやめてほしいわけでは決してありません。むしろ、次のようなことは、ぜひ気にかけていただきたいと思っています。
・宿題にきちんと取り組んでいるか。宿題をするにふさわしい環境でできているか。
・提出直前にまとめて慌ててやっていないか、日々少しずつ時間を取れているか。
つまり「内容」ではなく「取り組む姿勢や習慣」を見ていただきたいのです。間違えたまま提出された宿題は、私たちにとって、実はとても価値のある情報です。どこでつまずいたか、何が理解できていないかが一目でわかるからです。
間違いだらけの宿題を見て、決して「どうしよう、ついていけてない」と焦らないで下さい。「私が教えなかったからだ」と反省なさらないでください。それはむしろ、正しい家庭学習ができている証拠です。間違いを直すのは、私たちの仕事です。
Aちゃんはその後、お母さまにご協力いただいて「隣で教える」のをやめ、「見守るだけ」に切り替えていただきました。最初は間違いだらけのノートが続きましたが、次第にAちゃん自身が「教室ではどうやってたっけ?」と意識する場面が増えていきました。やがて、教室での取り組みに一層緊張感が出て、今では、教室でも宿題でも同じように力を発揮できています。
我々プロの指導者は、その子の日頃の学習状況から「この子の力ならこの程度まで導けば、あるいはこのように導けば、それ以上は自分で考えることができる」という”さじ加減”を常に意識しています。「先生が教えてくれない」と子どもが愚痴り出したら、そこまで子どもの力が伸びていると喜んで下さい。それでもお子さんがツラそうにしているなら、ぜひ直接指導者にご相談ください。
子どもが自分の頭で悩み、間違え、そこから学ぶ。その時間を、どうかそっと見守っていただければと思います。
